建設通信新聞 2016年03月31日 016面 01版 No.01
地球レベルの水循環「見える化」
2000年に大学技術移転ベンチャー企業として発足した地圏環境テクノロジーは、東京大学教授の登坂博行教授が開発した統合型水循環シミュレータ「GETFLOWS(GEneral purpose Terrestrial fluid-FLOW Simulator)」を核とした全球水循環モデルを構築、地球レベルでの地下水を含めた水循環を「見える化」することで水資源の実体解明と将来の予測を可能にしている。そのシミュレーション技術は土木や環境、衛生、資源、エネルギー、農林・水産、災害・防災など適用範囲は無限と語る西岡哲社長に話を聞いた。
水資源の実態解明と将来予測が可能
地圏環境テクノロジー社長
西岡 哲氏に聞く
水は地球規模で循環
地球上の水量は不変で絶えず地球規模で循環している。その量は14億立方キロメートルといわれ、そのうち2.5%が淡水とされている。河川水などの地表水は淡水の0.4%に過ぎず、人が使える水資源は地球上に存在する水からみてもごくわずかといえる。西岡氏は「河川を日常的に流れている水は、山に降った雨が地下に浸み込み長い時間をかけて河川に湧き出した水」と語る。利根川など長大な河川でも地表水は3、4日で海に流れ着いてしまう。しかし、1カ月雨が降っていないのに川に水があるのは地下から絶えず水が供給されているためだ。降った雨があたかも毛細血管のように地盤の中の微細な空隙に浸み込み数年から数万年の時を経て地表面に上がってくる。
誤った利用で深刻な影響
20世紀後半から水の誤った利用によって、地盤沈下や湖の消失など環境に深刻な影響を及ぼすようになった。「自然を壊すのは簡単。しかし、元に戻すには何万年とかかる」と言われるように水資源マネジメントの失敗は環境破壊を引き起こし、国際紛争の火種ともなる。カザフスタンとウズベキスタンにまたがる世界で4番目に大きい湖、アラル海が昨年その姿を消した。流れ込んでいる川の上流部で綿花栽培による灌漑が行われ水の流入量が激減、年々水量が減少し干上がってしまったという。湖周辺に住む人びとの暮らしが奪われた格好といえる。
こういった問題は日本にも間接的に影響を及ぼしている。綿花は輸出され日本にやってくる。そもそも綿花生産は水を大量に必要とすることから、「水が綿花という物に変換しただけで水が日本に持ち込まれたのと同じ」という。いわゆるバーチャルウォーターだ。
情報を防災、政策決定に利用
まず流域単位で考える
水循環は、まず流域単位で考える必要がある、河川の水は工場や農業、生活用水などさまざまな用途で使われている。上流で水を大量に使えば下流まで水は届かない。では、どれだけの量を使えば流域の人びとすべてが恩恵を受けられるのか。こういった水環境問題に取り組んでいくためには、絶えず変化する目に見えない水循環を可視化する必要がある。「地形、地質、土地利用、気象、水文データなどの公開データを統合し、水循環という自然現象をコンピューター上でシミュレーションすることで、3次元データとして可視化することが可能」と同システムの有効性を語る。こうやって得られた情報は、環境影響評価や将来予測、防災、さらには政策意志決定に利用できる。
例えば土木工事による環境への影響を読み取ることもできる。静岡市はリニア中央新幹線の建設に当たり、南アルプスから供給される地下水を含む大井川流域の水循環の変化を科学的にこのシミュレーション技術によって影響を正確に計算、事業の合意形成に役立てているという。
技術の適用範囲は無限
土木や環境、衛生、資源、エネルギー、農林・水産、災害・防災などシミュレーション技術の適用範囲は無限だ。例えば、防災において、「地質や地層、降雨などの条件を考慮に入れて自然災害のリスクを計算し、対策を立てることが可能」としている。また、飲料水を製造しているメーカーでは、取水可能量を判断することができる。シミュレーションモデルと実際のモニタリングや観測などの結果と整合性が取れない場合、新たな問題の発見につながることもある。
水問題解決の糸口
水循環は世界規模。「国や企業が知識を共有し、共通のモデルを使うことで、地下構造をより精緻にシミュレーションできる。それこそが社会インフラの構築であり、工学・社会情報の新たなオープンデータにつながる」と話す。そうすることで、いま世界が抱えている水問題の解決の糸口がおのずと見えてくるとともに、水利用について世界レベルで考えていく好機となる。
今後の事業展開について西岡氏は、「水循環に関する解析などのコンサルタント業務を行うとともに、ソフトウエアの開発を行っていく」という。また、水循環をリアルタイムで見ることのできる国土モデルを構築し、経済活動や災害に役立ててもらえるコンテンツサービスを提供していきたいとも話す。
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