日本公認会計士協会 副会長
山田 治彦
伊豆長岡町(現 伊豆の国市)で育ち、現在は横浜に住んでいます。
向かいは遊技場、隣は旅館という温泉街の中で高校3年まで過ごしました。当時は土曜日となると東京方面から観光バスで社員旅行の団体が押し寄せ、遊技場から流れる都はるみの演歌の中、カランカランの下駄の音、酔っ払いと芸者の大きな話し声、時として路上での喧嘩等、にぎやかというより騒々しい環境でした。
土曜日の午後に着いて飲んで、酔っぱらって日曜日の午前に帰るだけなので、どうしてこんな場所に遠くからお金をかけてくるのだろうと不思議に思っていましたが、自分が東京に住んでしばらくすると理由がよくわかりました。首都圏からそれほど遠くなく、温暖で、富士山が見え、海の幸に恵まれ、温泉でゆったりできるというのはわが故郷の貴重な財産であることが実感できました。
高校は県立韮山高校ですが、韮山高校は明治6年設立の140年を超える伝統をもつ高校です。私が在学中に創立100周年の記念行事がありました。当時ある先生が、「わが韮山高校は創立100年という我が国でもっとも長い伝統を持つ高校であるが、創立以来ひとかどの人物が一人も出ていない。この事実をしっかりと認識せよ」と言われたのが印象に残っています。しかし、前述した故郷の魅力に加え、大都市圏に近いという「地の利」。あまり努力しなくても新幹線も高速道路も整備され、大企業の工場もできてしまうという環境下では根性のある人間が育つのも難しいかと思います。静岡という地域の価値に感謝すべきということで現在は納得しています。
現在私は監査法人に所属し大企業の監査を行っていますが、同時に日本公認会計士協会の副会長をしており、ウェイトとしてはこちらの方が多くなっています。公認会計士協会はいわゆる業界団体ではなく、法律に基づいた自主規制機関です。公認会計士は必ず協会に登録しなければならず、協会は会員である公認会計士の業務を指導、監督することになっています。公認会計士は全国で約3万人いるのですが、あまりなじみがないと思います。というのも3万人の会員の内約7割が首都圏で仕事をしているからです。大企業を相手とした業務が多いのでこのような偏りが生じていますが、今後は医療法人や社会福祉法人についても監査が行われることになりますので首都圏以外でも増えていくことになると思います。
東芝等の不祥事が発生するたびに会計士はしっかり業務を行っていたのかという社会からの批判を頂戴します。また、国の財政や地方自治体の財政の悪化を受けて会計が重要であること、監査により透明性を確保することの重要性が理解されてきています。これは今に始まったことではなく、実はあの坂本龍馬も会計の重要性を説いていました。
これは会計士協会が作成したポスターですが、出典は坂本龍馬が土佐藩の重臣であった後藤象二郎宛てに書いた手紙です。3年前にNHKの取材により発見されたもので、龍馬は「これより天下の事を知るときは、会計もっとも大事なり」と述べ、会計に長けた福井藩士三岡八郎(由利公正…後に東京府知事)を重用すべきと提言しています。同じ内容を福井藩の重臣中根雪江宛てに書いた手紙も2017年1月に発見されています。この手紙を書いたのは龍馬が暗殺される5日前のことでした。
信頼できる社会であるためには情報の信頼性が不可欠です。公認会計士として情報の信頼性を確保するために今後も努力していきたいと思います。