特集

キラリ!静岡県人
2014/08/01掲載
佐野 登(さの のぼる)能楽師

 

佐野登

佐野 登(さの のぼる)


三保の松原が、世界文化遺産に登録された富士山の構成資産として認められました。私の卒業した小中学校は、まさにその松原に隣接するところにあり、少年時代の記憶はこの景色とともにある…今考えると大変贅沢な時を過ごしていたようです。

私は能楽師です。こちらはユネスコの無形文化遺産として早々に登録された日本の伝統芸能である「能楽」。その舞台を日々勤めながら、舞台でうたわれる謡や舞を広く一般の方々に教授することをしています。
まるで絶滅危惧種のような「遺産」扱いとなってしまった「能楽」ですが、能楽に限らず伝統的に残っている文化や歴史の中には、今に生きる人たちへのメッセージや生きるヒントが多く残されています。それに学ぶことが必要であるからこそ、我々は歴史を知り、伝統を継承し、そして新しいものを常に生み出し、世代を繋いで生きてきました。ですから能楽にもそういった学ぶべき先人たちの知恵が随所に織り込まれています。

この知恵を授かるにはある程度の時間がかかります。それを身に付けることが教養となりますが、現代社会においては修養することが許されない状況となっているのを、指導する場面において大きく実感しています。その要因はさまざまで、現在日本が抱える社会的課題に直結していると感じています。そんな中、時間は容赦なく刻一刻と過ぎていきますが、決して妥協してはいけないことがあります。それは“未来への視点”、次世代育成、とりわけ子どもたちの教育です。それに対して現在私はむきになってやっていますが、私だけではなくどんな人でも、社会においてもそうあるべきだと思っています。自分が生きているところの課題解決だけではなく、そのビジョンが何世代にも未来へ続く先々に向いていないと、自己本位なものに終始してしまうからです。昔の人たちはそれをよくわかっていました。だから有益なものを形にして伝えてきたのです。それが伝統として残っているものの原点です。

三保の松原に残る「羽衣伝説」は三保の稀有な美しき土地を賞賛し、この美しさを未来に残すための努力をしなさいという大切なメッセージととらえています。その美しさが保たれることで、その土地の人々が豊かに暮らしていける…その象徴的存在であるということが、「羽衣」の謡の詞章にも表れています。

私が偶然にも少年時代を過ごした三保、そして家業として継承している能楽、この出会いは必然なのではないかと思っているくらいです。自分たちの住むまち、郷土であるこの静岡を、大切に思う気持ちと誇りに持つこと、静岡の子どもたちみんなにそんな思いを持ってほしいと願っています。そしてその気持ちを胸に、大きく世界に羽ばたいてもらいたいと思いながら、母校の授業に通い続けています。


佐野登佐野登



<佐野登プロフィール>
東京藝術大学邦楽科卒業。宝生流18代宗家宝生英雄に師事。「翁」「石橋」「道成寺」「乱」等の大曲を披く。重要無形文化財総合指定(能楽)保持者。(社)日本能楽会及び(公社)能楽協会会員。

全国各地での演能活動や謡曲・仕舞の指導を中心に、日本の伝統・文化理解教育の一環として「生きる力」をテーマとしたエデュケーショナル・プログラムを日本各地の教育現場で行っている。また、次世代育成、普及における伝統文化伝承のための多様な体験型プログラムの実施や教員、教育関係者への講演も数多く行っている。海外公演にも多数参加し、中島みゆき「夜会」出演をはじめ、他ジャンルのアーティストとの交流。現代に活きる能楽を目指し、積極的に活動をしている。

清水三保第二小学校、清水第五中学校卒業。
現在、静岡市立清水第五中学校において、総合的な学習における能の授業を通年実施し、1年~3年生まで指導。また謡つながりのコミュニティで新たな価値観を創造する地域の文化力・教育力向上の取り組み「いざ!謡わん能楽謡隊」において「しずおか謡隊」の活動を実施中。広く一般の方々へ向けてひらかれた伝統、能楽を提唱。

 

 

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